介護ニーズ最前線
五感のデイサービスサロン登場
五感のデイサービスサロン“ダーナ”
五感のデイサービスサロンが登場しました。”ダーナ”という都内のデイサービスです。
介護保険制度がスタートして20年余り経ちました。そのなかで利用者さんすなわち要介護の方々にも、そして受け入れる側にも大きな変化が起こっています。
“サロン”という名称のデイサービス
介護デイサービスが進化しています。”ダーナ”は「サロン」という名称を使用したデイサービスです。なかなか「サロン」という名称のデイサービスは無かったのはではないでしょうか。その意図は“ご利用者さま”は“お客さま”という考え方にあり、すなわち“接客”です。20数年前に介護保険制度がスタートした頃には、若い介護職員がおばあちゃんおじいちゃんを叱ることが問題になっていました。やはり人生の先輩として“さん”付けで呼ぼうということも叫ばれ、“尊厳(Dignity)”ということも言われました。そこから考えると、別次元と言っても過言ではありません。介護保険制度スタートから20年余りを経て介護サービスもここまで進化したといえます。
五感のデイサービスサロン
“ダーナ”の大きな特徴としては、”五感”のデイサービスということを掲げています。筆者も以前広告関係の仕事をしているときに、某大手化粧品メーカーと”香りのプログラム”その発展形としての”五感マーケティング”を開発していましたが、まさかデイサービスで”五感”をうたうところが登場するとは思いませんでした。しかしながら、よくその考えを聞いてみると、まさに介護にふさわしいといえます。詳しくは本文をご覧ください。
初夏の風そよぐ午後に代表の寺村瞳妙さんにお話を伺いました。
ダーナの由来は仏教の「布施」
「布施」っていうのが「ダーナ」っていう意味です。五十歳過ぎて介護福祉士の資格取得と仏教の得度を同じ年にしたのですが、仏教のおしえに「無罪の七施」があります。優しく微笑むとか、優しいまなざしとか声かけとか、人に席を譲るとか、いくつかあるんです。それが全て介護の業務そのものだなと思いました。なかなか優しい笑顔っていうのは難しいですよ。(笑)
ヘルパーさんには、最初にその話をします。自分も経験して来たこれまでのデイサービスは、一日事故なくとにかく回さないといけないとなりがちです。そうではなく、ダーナのコンセプトはこういうことです、ということをお話して、共感を頂くようにしています。
これまで自分が運営して来た施設とは違うものにしたかった
(寺村氏は、ある介護ビジネスの一事業所として施設長をされていた)
以前は2013年から2020年、同じ場所で介護施設を運営していました。7年ですね。売り上げを上げるためにはお客様を選べないのです。稼働率を上げるために「その方はちょっと今の雰囲気に合わないのでは」ということは言えません。大変ビジネスライクでした。私自身が仕事としてしかとらえてなかったのです、サラリーマンとして。やはり独立して自分の思いを伝えていけるというのは全然違います。
デイサービスのイメージを変えたくて「五感」を掲げた
-これまでのイメージを変えて行きたい
ご利用者さんお一人お一人にお幸せになっていただきたい。それには気持ちのいいことをしてさしあげたい。一昔前のデイサービスは、ややもすると、痛いこと、臭いこと、汚いこと、大声、大きな音というイメージだったんです。それを真っ向から全部180度変えていったらきっと心地がいいんだろう、という、それが「布施」につながります。常に、スタッフから優しい微笑みで声かけてもらう、まなざしも優しい、いい音楽が聴こえる、いい香りがする。そういうことは、お家ではなかなかできないのです。
コーヒーも全部このカップアンドソーサーでお出しする。男性のご利用者様がもう「これがほしかったんだ」っておっしゃる。たぶん一般的にはマグカップでプラスチックで落としても割れないもので出しがちですね。でも、大概お客様は割らないです。大事にしてくださる。割るのはスタッフ(笑)だから。でやっぱりレギュラーコーヒーでコーヒーの「香り」で、カフェに来たような気分ですね。
-すべてのサービスに「五感」を行き渡らせたい
”スタッフの優しい表情”とか”声かけ”とか。”自然なこの庭”も最大限に活かしています。実は、(一般的に介護施設でよく見られる)みなさんが作った作品とか、そういうのは一切ないのです。
そして、”料理の盛り付け”。目で楽しみ「視覚」で喜んで頂く。それから「聴覚」はやはり”音楽”。こう気に障らない音楽ですね、それが常時それとなく聴こえるようにする。あとは、”スタッフの声”、それから時々やはり”鳥の声”が聞こえます。さらに”風とか木々のざわめき”とか、そういうものも全て「聴覚」で感じ取って頂いています。”ハープコンサート”とか”フルート”とかも”音楽療法”としてやっております。
それから、「味覚」は“スイーツ”。”和菓子”とか、”自分たちで作るおはぎ”とか。“おはぎ”って初めて作ったっていうご利用者様、結構多いですよ。
「触覚」は”毛布”、”柔らかいタオル”とか”肌着”とか。あと”マッサージ”、”セラピューティックケア”というマッサージもあります。
「嗅覚」は”アロマ”、“お香”、”コーヒーの香り”、”ご飯の香り”、”お風呂場の入浴剤”とか。柑橘系で認知症に効能があるというアロマもあります。
家族が行かせるデイサービスから「自分が楽しみなデイサービス」へ
おかげさまで「来るのを楽しみにしているのよ」ということを言葉にしてくださり、「お味噌汁がおいしいわ~」「ご飯が毎回おいしいわ~」と言ってくださる、それはものすごく気持ちの上では活性化されていると思います。お家で一人でおられると黙ってテレビ見てらっしゃる。ご本人たちもそういうように言葉にして出されることは、老化現象を遅らせていることにつながると思います。以前はそういう感想を聞いたことがなかったのです、あんなに一生懸命やっていたのになぁと思うんですけど。(笑)
また、利用者さんがお互いにやはり譲り合ったり尊敬し合ったり。お互いに、「あの方お歳を召しているのにすごいわね、しっかりしておられるわね」とか「お先にどうぞ」とか言っておられる。実際にご利用者さんは「気立てのいい人ばっかりが来ている」と言葉に出して家族に言ってくださり、家族はケアマネさんに言ってくださいます。ですから、徹底してこの「五感」できちんと表現していくことで、そういうお声が頂けて、それが自然に広がっていくことが理想的かなと思っています。
―ご利用者さんからお聞きしたお声―
- 優しいお声がけが嬉しい
- (ヘルパーさんの都合で)トイレ行きましょう!(と無理やり)じゃなくて、トイレ行きますか?(と、利用者さん本位で優しく声かけしてくれる)
- みんな楽しみに来られている
- 離れて住んでいる家族も安心と言っている
-介護士さんから聞いたご利用者さんのお声-
- みなさんあっという間とおっしゃっている
- 楽しい
- 第二のおうち
- お庭が喜ばれる
- 昼食が大変喜ばれている(鱈のソテーなど)
デイサービスとして通常実施すべきことは守りつつ
介護保険制度を使って募集を頂いているので、そこは順守していく。個別機能訓練などの流れも全く一緒です。入浴・排泄・食事、この三大要素はもちろん押さえますし、安全・安心は保証していかなくてはいけません。ただ、何のために私達は介護をしているのかということを忘れてしまうと、ただのお仕事、作業になります。
スタッフにもマニュアルはきちんと最低限やって頂く。で、それ以上やりたいと思ったら「自分は人様に五感にアプローチする何かしていますか」ということに戻ってくださいと言っています。音楽が止まっていました、じゃあ音楽つけに行かなきゃいけない。ご利用者さんが動かずに遠くを見てらっしゃいますね、ちょっと手をさわって話しかけに行きませんか、といくらでも見つけられるから、そこに戻ってくださいと言っています。そのために、毎月一回研修というか勉強会をしています。
入浴・排泄・食事はあるけれども、それを五感でできるだけやっていくということです。 業務上の優先関係で何を選ぶかっていう選択に迷ったときは、五感にアプローチできているかどうか、ということです。
「ライフケア」なんです
うちには養生に来てほしいんですスタッフも。(笑) 会社を「ダーナ―ライフケアジャパン」という名前にしたのも、ライフケアなんです。50代の頃に断捨離しました。要するに、目の行き届いてないものまで持っていたわけです。そうすると、無くなったり壊れたりしませんか。じゃあと、どんどん断捨離したんです。残ったものを「五感」を磨くためにとにかく手入れする。手入れすることで気持ちも手入れしていく。その意味で人生も手入れする。そういう「ライフケア」なんです。
スタッフの方々もやり甲斐や生き甲斐を感じておられる様子
スタッフたちはやはりプライドをもってこの仕事に入りたいと思っている人もいるわけです。その方たちに、リーダー的になって頂く。私のように有料老人ホームや大型のデイサービスに行った経験があると、その違いが分かるんです。スタッフたちにはそれが当たり前になってくれたらいいと思っています。
-介護士さんのお声-
- ずっと笑顔でご機嫌でいられる
- 利用者さんからいろいろ学ばせてもらっている
- とてもいい環境でやらせてもらっている
- バタバタせず少人数制でゆったりと一人一人と向き合える
- すごく充実している
以前は地域の方々を招いた「文化祭」もされていた
(以前同じ場所で運営された頃に地域の方々も招いた「文化祭」を開催し区からも表彰された)
お客様のご家族がご家族を呼んでくださいます。私どもはやはり地域支援という地域の方のためにここに開かせていただいています。口コミでそうやってお客様同士でご家族さんが「うちのおばあさんダーナに行っているけどなかなか大事にしてくれるのよ」って言ってきてくださるのはとっても理想的なんです。
本当に地域に密着していく。そこでお礼するための演奏会とか、お祭りとかっていうのは、今後やはり展開したいとは思います。
これからは小規模のデイサービスを広げたい
私は小規模のデイサービスをいくつも持ちたいんです。もう変えたいんです。みなさんにお一人でも多くの方にこのコンセプトで実感していただきたい。そのためには、一つ一つは小さなデイサービス施設を広げて行くようにしたいですね。
これからの団塊の世代を考えると「文化的な本物志向」のデイサービス
ダーナの設立の時に考えていたのが2025年問題です。私たちがこれからお世話するのは、団塊の世代の人たちが圧倒的に多くなる。団塊の世代というと、私が以前地方で勤めていた会社の上司くらいですね。本当に世界中を見てこられて、日本を動かしてきたという自負もお持ちの方々ばかりでした。この人たちがみんなで童謡を歌うということはありえない。
ですからその方達の要望を想像したときに、やはり「文化的な本物志向」というものをきちんと視座におかないと満足していただけないだろうというのはあります。
幸せに過ごして頂く一日一日がゴールです
私の中では今日一日が完結しているゴールです。この間ご利用者さんとお風呂の介助していた時に、自分で「私は本当に幸せなんです」と言っていました。もうすでに私の夢は叶っています。ご利用者様が「みんなに会いに行きたいんだよ」とおっしゃって頂いて、ありがたいと思います。
本当に来てくださる人が褒めてくださるし、こんな幸せなことはないです。仕事をしてお客様が「おいしかったぁ」とか「気持ちいい」とか言ってくださる仕事って他にないですね。
心からその人の人生の最終章を幸せに過ごして頂きたいと思います。
事業の戦略としてはあります。これも自分が仕掛けていくのではなく、たぶんご縁があったらそういうお話が来るんだろうと思っています。逆に投資をしてリスクは生みたくないというか。(笑) それよりもご縁があってそうさせて頂けるのだったら、と。
ご利用者さんが主役のデイサービスを目指したい
2年目になって「五感」に関してはきちんとマニュアルにします。やはり家族ではできないことをやっていかないと、私達は家族にはなれないので。以前はご家族を説得していました。大変ですね、代わりにやりますから、と。家族が主役だったんです。でもこのごろは「母が見て(見学して)気に入ったから」と言ってくださる。
やはり今までのようなデイサービスを続けていったら選ばれない。2025年問題も相まって、「ご利用者さんが満足に一日を過ごして頂けるデイサービス」にするには、という発想なのです。
以上
2021.03.30
団塊世代から次世代介護施設
団塊世代は時代と世代の変わり目
団塊世代は時代の変わり目をつくりました。「数の力」で初めての本格的な若者文化を生み、それは人種が変わるほどでした。団塊以前は「見合い結婚」で団塊以降は「恋愛結婚」です。「友達夫婦・友達家族」が始まり、それ以降はそのバリエーションといえます。(図表参照)そして「新しいもの好き」です。つねに時代の先端のものは自分たちが担ってきたという自負があります。団塊以降の若者もそうだといえるでしょう。
高齢者においても同様で、これまでの利用者は「おじいちゃん、おばあちゃん」でしたが、団塊からは多少具合のわるい「おじさん、おばさん」です。この従来とのギャップに対応できればあとの世代はそのバリエーション、つまりこれからの介護施設利用者のモデルづくりになります。
団塊世代とともに創る次世代介護施設
いまロボットやAIをはじめ介護施設自体が次世代へ向けて動き始めています。それは団塊の施設利用と重なります。次のような永続的な次世代施設をともに創ることになります。
●ギターのある介護施設
「うた」が変わります。“どんぐりころころ”も現在の“文部省唱歌”も姿を消します。フォーク・ニューミュージック・ポップス・歌謡曲になります。施設にはギターがあって誰かがいつも弾き語りです。
●利用者が運営するレクリエーション活動
ギターやウクレレ、麻雀、ゴルフパッティング、邦画洋画・音楽ライブ映像鑑賞など何か集まってやることが好きです。自発的なレクリエーション活動です。
●介護予防エクササイズの盛んな介護施設
もともとエクササイズ大好きで、低要介護度であればリハビリを兼ねて積極的にやりそうです。インストラクターがいれば精を出すでしょう
●グルメな介護施設
食にうるさい団塊です。おいしさが介護施設の評価にもつながります。コスト面もあるので一品グルメや、ウンチク好きなので産地など情報付きメニューも考えられます。
●ニューテクな介護施設
新しいもの好きです。タブレット端末使用やマッスルスーツなどには好意的で、移乗介助ロボットや離床介助ロボットなどは面白がりそうです。見守り機能に身体変化把握も兼ねたAIによるコミュニケーションロボットは話し相手としても有効です。
●同世代が支える介護施設
同世代の職員およびボランティアは、わかり合える、話を聞いてくれる、ということで、精神安定の面からも効果的だといえます。
●クロスジェネレーションの介護施設
若い職員に対しても、恋愛婚世代であり、ポップス・ロック世代でもあるため、年齢差のある友人関係になる可能性があります。若者をサポートしたい気持ちもあります。
●コミュニティカフェとしての介護施設
すでに一部で始まっていますが、今後、地域で家族の介護問題に悩む住民も来訪し、かつギターで歌う若者も来れるような地域のコミュニティ拠点になる可能性もあります。
団塊世代の三大問題
しかしながら、片方で団塊世代特有の問題もあります。この問題が解決されれば、いま述べたような次世代介護施設への道が開かれるといえます。想定される問題は大きく三つ、それは「クレーム」および「パワハラ」そして「セクハラ」です。「クレーム」としては問題の指摘が得意な人たちがいます。また、「パワハラ」はこれまで会社や仕事社会でよくありがちでした。さらに「セクハラ」で社内恋愛や不倫を生み出したのも団塊男性です。
ではどう対応すべきか。基本的には「説明」とくに「事前の説明」が重要です。さらに一部のウルサ型には管理職や施設長が直接対応。それは「施設長に言われちゃしょうがない」と予想以上に効果的です。
もう一つの対応法は「持ち上げてあげる」です。「みんなが〇〇さんのようだといいのですが」と言えば、よしわかった協力しよう、となり易いわけです。
団塊世代から新たな介護ニーズ
団塊世代はこれまでも変わり目をつくって来ました。団塊世代から従来の高齢者とは違うタイプの利用者になり、今後はそのバリエーションになって行きます。すでにプレ団塊世代が利用者になり始めています。
これからどういう介護施設にして行きたいか、それを団塊利用者とともにどう創っていくか。それを考えるところに明日の介護施設のあり方が見えてくるといえます。
(図表)年代別各世代と世代の変わり目
老施協連載記事を見る
上記に掲載した記事は、第12回「次世代介護施設が花開く」に加筆修正したものです。
老施協は、全国老人施設協議会の略称で、全国の特別養護老人ホームやデイサービスなどの介護施設が参加する協議会です。月刊「老施協」というマガジンを毎月発行しています。この月刊「老施協」の依頼で、これから介護施設に団塊世代が入るようになるとどうなるのか、ということで全12回の記事を連載しました。介護施設および介護に携わる方々のお役に立てれば幸いです。
-
第1回「団塊世代の”うた”が介護施設を大きく変える」
-
第2回 「介護施設に“団塊クレーマー”が来る? 」
-
第3回「高齢女性利用者がミニスカに!? 」
-
第4回「利用者が利用者を励ます介護施設」
-
第5回 「封建性と革新性が共存する段階世代」
-
第6回「エンタテイメント&ゲームが心をつかむ」
-
第7回「大きな塊にみえて実は“バラバラ世代”」
-
第8回「グルメとフィットネスで新しい風」
-
第9回 「デジタルが苦手でも施設のニューテクを担う」
-
第10回「恋バナの咲く介護施設!?」
-
第11回「仲間が楽しい介護施設」
-
第12回「次世代介護施設が花開く」