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シニアの壁・消費の壁

「シニア」という言葉が個人消費の足を引っ張っている-若者からもシニアはちょっと

イメージ:シニアの壁・消費の壁

シニアビジネス/シニアマーケテイングはなかなかうまく行かない

シニアビジネス・シニアマーケテイングはなかなかうまく行かない、といわれます。実際、失敗例も数多いといえます。
その要因は個別に様々であるといえますが、ひとつ共通していえることがあります。それは生活者とのズレです。

シニアと呼ばれることに関するグラフ2022年3月

現在の50・60代は、「シニアと呼ばれても自分のことだとは思わないし、呼ばれたいともおもわない人たち」に対して「シニア」ということで考え始めるから、入口からズレてしまうということがいえます。

未来ビジョン研究所レポート「シニアと呼ばれても誰のこと?」をご参照ください。

「シニア」を使って失敗、「シニア」を使わなかったために成功

実際CMやポスターでも「“シニア”という言葉を使っただけで失敗した」例はこの十数年枚挙にいとまがないといえるほど多いといえます。
反対に、この年層に対しては
●化粧品
●サプリメント
●観光列車
●雑誌
●商業施設
などで、「“シニア”という言葉を一切使わない企業が成功」しています。

「シニア」は終わった人・終わりかけの人

シニアということで、思い浮かぶ一般的なイメージは「終わった人」ということではないでしょうか。従来型高齢者観ということもいえますが、人生下り坂の人たちであり、仕事もリタイアして行くと同時に消費者としても市場からすぐに退場して行く人たちということです。仮に顧客になってくれたとしてもすぐに退場してしまう人たちであり、そこに頼っていたのでは、企業としても商品・サービスとしても先がない、ということです。
終わりかけの人たちだから、あくまで企業としてはサブ的な取り組みであり、仮に取り組むとしてもお金もできるだけかけずに取組みたい。やはりメインはあくまでこれからの市場である「若い人たち」であり「デジタル」だということです。

コア層・コア視聴率は13~49歳

2020年4月から視聴率のとり方に大きな変化が現れました。それは従来の世帯視聴率に加え「コア視聴率」をとるようになったのです。これは13~49歳の視聴率であり、ここがコア層ということでコア視聴率と呼んでいます。これは広告主企業の要請によって生まれたとされています。つまり現役世代の視聴率を見なければ、テレビ番組の評価もできないし、提供するかどうかも決められないということです。その意味でも現在の企業にとって消費者はあくまで49歳以下の現役世代です。

ビジネス誌などでこんな記事を見ることがあります。すなわち、60代以上の消費額が100兆円といわれて多くの企業がそこを重点にする企業戦略をとっているが、それは間違いで見直すべきだ、というような記事です。しかしながら、実際には、見直す以前に、大部分の企業では60代以上の消費額が100兆円といわれても最初からピンと来ない、というところとみられます。

そうした多くの主要企業の要請によって生まれたコア層ですが、実は、今後の人口構造の変化のなかでは、コアとはいえ、全体のなかの限られた層ということになります(以下図)。この限られた層のなかの熾烈な取り合いということになるわけで、いずれにせよ、このなかに生き残りを賭けるとすれば、ますます苛烈なものになるといえます。まさに真っ赤なレッドオーシャンでの闘いになります。この図表については、「若者中心の社会から大人がボリュームゾーンの社会へ」の項でさらに詳しく説明します。

2024年50歳を基準とした人口構造の変化(コア層)の図

シニアから若い世代へシフトして失敗

50代以上ターゲットで成功した企業も一般的には、成功すればするほどシニアから若い世代へシフトチェンジをします。それは、「若い世代を取り込めなければ企業としても商品としても未来はない」と思うからです。これは一般的な常識であり、だからこそ、前述の「コア視聴率」が必要ということにもなります。そのなかで比較的よく見られるパターンは、中高年大人世代で成功して、そのままでは先がないからと思い込んで若い世代にシフトチェンジしてうまく行かず、肝心の中高年大人世代も離れていって、結局市場から撤退するというパターンです。

大人市場で永続的なサクセス

実際、以下図を見て頂いておわかりのように、50代以上で成功するということは、どういうことかといえば、その年層の顧客をしっかりとらえ続けることが、“50代に入って来る次の世代をとらえ続ける”ことになる、ということです。それは、すなわち永続的なビジネスが半ば約束されたことにもなります。若い世代を開拓しないと次がない、という常識は、ピラミッド型の人口構造だった高度成長期の古い常識といえます。ヨーロッパのブランドものや高級スポーツカーは、一定年齢に達し経済的にも時間的にも余裕の持てるようになった大人が新しい顧客として次々に入って来るから成立しているといえるでしょう。
すでに市場構造としても高度成長期の従来型の常識では対応しきれない新しい次の時代に変わってしまった、といえるでしょう。その従来の常識では見落としがちだったところに、ブルーオーシャンが広がっているといえます。

2024年50歳を基準とした人口構造の変化(赤枠)の図

詳しくは「新しい大人マーケティング」の項を参照

シニアのとらえ方は人によってマチマチ

「シニア」が厄介なのは、「シニア」と一言で言ってもとらえ方はマチマチだということです。年代自体が、50代以上、60代以上、70代以上、80代以上とバラバラです。50代以上ととらえている人が80代以上ととらえている人と議論しても全くかみ合いません。また、そのシニア像もアクティブシニアとしてとらえている人もいれば、要介護者ととらえている人も少なくありません。両者が議論してもこれも噛み合わないのです。企業でシニアプロジェクトができてもなかなか思うような成果が得られないのは、こうした社内でのとらえ方がマチマチなことにも大きな要因があるといえます。

シニアのなかに親世代と子世代の2世代がいる

また、「シニア」といっても、そこには親世代と子世代の2世代がいます。シニアあるいは高齢者と言ったときにどちらを指しているのか、人によってバラバラであり、それが迷路に入ってしまうひとつの大きな要因といえます。
親世代は一般に80代以上で、要介護者もいて、世代効果もあり、従来型高齢者を体現しているといえます。これに対して子世代は50-70代で比較的元気で見た目もオジイサン・オバアサンではありません。さらにこの子世代は介護などで親世代の世話をしていて、お互いに世話をするされる、という関係になっています。

世代の違い(別項参照)もあり、どちらかによって人種が違うと言ってもいいぐらい全く異なる人たちです。シニアと一言でいうと、親世代と子世代の別々の世代を一緒くたにしてどうしたらいいかと考えてしまい、議論をしても全く議論がかみ合わず、結局まとまらないことになりやすいといえます。

問題は若者から見て「シニア」は魅力的ではない

とくに問題なのは、若者から見て「シニア」があまり魅力的に見えないことです。要するに、人生下り坂で、お年寄り、高齢者の言い換えであって、自分たちがケアしてあげる対象になるかもしれないが、自分が将来そうなりたいとは思い難いということです。「老後2000万問題」や「健康寿命」で辛そうというイメージもあるでしょう。自分が将来シニアになるということでワクワクする若者はまずいないといえます。さらに、それに加えて、自分たちの支払う年金を一方的に持って行く人たちであり、あまり好きにはなり難いという面もあります。

人間誰しも高齢を意味する言葉では呼ばれたくない

長年、高齢社会の研究をしてわかったことは、結局、「人間は高齢を意味する言葉ではあまり呼ばれたくない」ということです。
つまり、昔、「お年寄り」という言葉があって徐々に使われなくなり、代わって「シルバー」という言葉になりました。シルバーシートが代表的です。これも徐々に使われなくなって、現在「シニア」が使われていますが、それも前述のように「自分のことだとは思わないし、呼ばれたいとも思わない」という調査結果なのです。若者に「若者」と呼んで「エ~自分ですか」という人はいないわけですが、シニアはそう反応してしまう人も少なからずいるということです。
高齢者というのも65歳からと規定されています。これは国連で規定されており、政府自治体でも公式のものとして使わています。しかしながら、65歳ぐらいの人に高齢者は何歳ぐらいからだと思いますか、と聞けば、75歳ぐらいからと答えます。高齢者はつねに自分よりは上の年層のことになります。実際、「高齢者」を65歳からもっと上に引き上げようという社会的提起は何度かされています。

シニアに代わる言葉は「中高年」「リタイア世代」「50+」「新しい大人」

では、「シニア」に代わる言葉はあるのか、あるとすれば何なのか、これが難しい。それは前述のように、「高齢を意味する言葉では呼ばれたくない」というインサイト(心のなかの気持ち)があるために何を言い換えてもダメということがあるからです。
そのなかでもこれまでの調査結果などからよりベターな言葉を探るとすると
「中高年」
というのが現実的だといえます。それなりに高齢を意味しますが、日本語でもあって、より客観的で「若者」という言葉に近い言葉使いといえるでしょう。
「中高年大人世代」
という言い方もできます。中高年は40代以上ですからかなり中高年は幅広くなりますが、まさにそれは“人生100年時代のなせる業”であり、時代に合わせて言葉に含まれるボリュームが変わって来るのも自然なことだといえるでしょう。40・50代はミドル 60・70代はミドルハイと言ってもいいと思います。(ちなみに、「若者」は10・20代、20・30代は「若い世代」というのが一般的な呼称とみられます。)
また、シニアという言葉をリタイアした人たちという意味で使うこともあります。これについては、
「リタイア世代」
としたほうが明確だといえます。会社や仕事の現役を全てないし半分リタイアした人たち、あるいは早期退職した人たちがどうしているか、ということがハッキリわかるからです。むしろシニアという曖昧な言葉使いでは意味がわかり難いということがいえます。

このほかに、米国で使われているのは
「50+(フィフティプラス)」ないし「50+世代」
という言葉で、要は50代以上ということです。これはかなりハッキリするし、40+、60+、70+というようにも使われるので対象を明確にするという意味でも使い勝手のいい言葉です。

また、以前、米国の代表的なリタイアメントコミュニティであるサンシティに視察ツアーを引率して行ったことがあり、そのときに説明をしてくれた開発会社の担当者が面白いことを言ってくれました。真っ赤なパンフレットの表紙に「アクティブアダルト」と書いてあったので、何故「アクティブシニア」ではないのか、と質問したら、その答えが「“シニア”はアメリカでは受けない」、ということでした。日本と同じだと驚かされました。結局洋の東西を問わずに「“シニア”は受けない」のです。ここにあるようにシニアの代わりの言葉としては
「大人」ないし「大人世代」
もよく使われます。そもそも「大人」には「わかっている人」などプラスのイメージもあり、受け入れられやすいといえます。ただ年齢が広がってしまう面があるために、前述のように「中高年大人世代」というような言い方もあります。この大人ですが、当研究所では、長年の研究から現在の40-70代は従来の同年代とは大きく違っているということで、
「新しい大人」および「新しい大人世代」
と呼んでいます。これまで実際に当該世代からは例外なくいい印象として受け止められています。対象となる当事者からネガティブに受け止められない言葉使いをするというのは重要なポイントといえます。

高齢者に代わる「高年(ハイエイジ)」

ちなみに、高齢者に代わる言葉として、最近使われ始めているのは、
「高年(ハイエイジ)」
という言葉があります。80代以上を指すのが順当といえます。前述した親世代にあたる人たちといえます。

そもそも「高」および「ハイ」という言葉自体にネガティブな要素がなく、むしろ一般的には平均以上を指すいい言葉なので、ネガティブなイメージにはならないといえます。もちろんこの年代には要介護など大変な思いをしている方々もいるわけですが、片方では、ますます生活現役で活躍される方々も増大しつつあるので、そうした現状と今後を反映する呼称になるのではないかと思います。