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「人生下り坂」観から「人生これから」観へ

生涯現役生活者=現役消費者で「若者の雇用」にも貢献

イメージ:「人生下り坂」から「人生これから」へ

フネさん52歳、波平さん54歳 50代以上の劇的変化 シニアから「新しい大人」へ

サザエさんのお母さんのフネさんは何歳だと思われるでしょうか。52歳です。実は二説あって、48歳説と52歳説ですが外見からすると52歳が順当でしょう。夫の波平さんは54歳です。これは現在の50代とは大きな違いです。このことは、2013年に最初に明らかにし2016年に発刊した拙著でも記しました。(「シニアマーケティングはなぜうまくいかないのか~新しい大人消費が日本を動かす」拙著日経新聞社P.113,114)

フネさん52歳に対して、すでに黒木瞳さん63歳、大地真央さん68歳、風吹ジュンさん71歳、さらに阿木燿子さん78歳、吉永小百合さん78歳と、皆さん年上です。現在のこの方々は大変魅力的で現役でご活躍をされています。ではフネさんとほぼ同い年というと誰になるのでしょうか。なんと石田ゆり子さん54歳です。全く違います。さらに少し年上の方という意味でも薬師丸ひろ子さん59歳、YOUさん59歳、小泉今日子さん58歳と、皆さん素敵でフネさんとは全く違います

男性も、波平さんが54歳なのは当時定年退職が55歳で、定年一年前で盆栽をいじる波平さんだったわけです。
ところが現在では、秋元康さん65歳、桑田佳祐さん67歳、さんまさん68歳、たけしさん77歳、タモリさん78歳と、皆さん第一線でご活躍されています。秋元康さんは還暦を超えられていますが、還暦を超えた方が女子高生の気持ちをうたった詞を書かれて女子高生にヒットしている、というのが現在起こっている現象です。では波平さんとほぼ同い年は誰でしょうか。なんと江口洋介さん56歳です。そして遂に木村拓哉さんが51歳。信じ難いことです。さらに、ウッチャンが59歳です。

少し前までのわが国の50代女性はフネさんのような方が代表でした。初老の主婦の方です。ところが現在の50代の方々は全く違います。皆さんお若くて素敵でご活躍中です。60代・70代女性は少し前まではおばあさんだったわけですが、上記のような魅力的な女性がどんどん増えています。男性も同様です

芸能人だから、ということはあるでしょうが、一般人もこの6・7割ぐらいではあるわけです。50代以上は全然違う50代以上になってしまったといえます。フネさん波平さんがまさにシニアだとすれば、日本の50代以上は全く変わってしまった、ということで「新しい大人」と呼んでいます

生涯現役消費者で若者の雇用にも貢献

従来の常識では、50代から先は「終わった人」であり、「余生をおくる人たち」で「人生下り坂」感でした。今でも40代以下からみると多かれ少なかれそういう人たちだという感覚だと思います。しかしながら、現在の50代以上は大きく変化しています。

50代までは会社も大変でいろいろなことがあります。自営業であればますますそうかもしれません。ところが多くの調査やインタビューを重ねてわかって来たのは、50代から先は、私生活という意味では程度の差はありますが、ひとしなみに、できれば「人生の花を開かせたい」と思うようになっているといえます。まさに 「人生下り坂」感から「人生これから」感への大きな転換です。「生涯現役生活者」であり「生涯現役消費者」といえます。

図表:人生のとらえ方が大きく変わる

一昔前までは全ての人が一律に「無個性な老人」になって行くことが常識でしたが、現在は、50代までは「会社のため」「仕事のため」「家族のため」「子供のため」だったのを一旦卒業して、これからは「自分らしくありたい」ということが始まっています。

これまでは消費財としても「入歯洗浄剤」と「紙オムツ」と「老眼鏡」以上で限りなく消費もゼロに向かう人たちでした。現在でもシニアといえば多少おカネを使うことはあってもすぐに顧客ではなくなる人たちという印象だと思います。しかしながら、現在の50代以上は消費の可能性も大きくなってきて、恒常的に大きな消費をする人たちに変わっています。

一例を挙げれば、2015年にJR東日本・JR西日本・JR東海の3社が揃って増収増益でしたが、それは北陸新幹線が出来て
金沢に首都圏からも行きやすくなったからです。金沢と京都は50代以上とりわけ女性たちの鉄板の旅先です。京都は訪日外国人であふれていたような印象がありましたが、実は、50代以上の女性だけで訪日外国人の2.6倍も行っています。つまり、彼女たちはJR3社を増収増益に押し上げるぐらいの消費力があるわけです。しかも、鉄道だけでなく、旅先での旅館・ホテル宿泊、レストラン・料理屋などでのグルメなどが楽しみです。訪日外国人に湯豆腐やゆばは難しい面もありますが、彼女たちはそこに高いおカネを出します。そのことで、そこに従事する若者たちの雇用にも貢献します。

1900兆円といわれるわが国の個人資産の多くは50代以上の大人世代が持っています。またわが国のGDPもいまや個人消費が支えているとされます。その意味では1900兆円が動くか動かないかは、わが国の経済にとっても大きな分かれ目といえます。上記のように、新しい大人世代が動けばこの1900兆円は動きます。そしてこの1900兆円が動けば、若者の雇用も生まれるわけです。それは、旅行観光、通信デジタル、サプリメント、化粧品、リフォーム転居、食品飲料、金融などあらゆる分野にわたるといえます。

図表:1900兆円の個人資産→新しい大人消費→若者の雇用→1900兆円の個人資産

ガンも腰痛も治して健康に

中高年といえば、生活習慣病といえます。実際50代を過ぎて体にとくに何もない人を探すほうが難しいといえます。具体的には高血圧、腰痛、関節痛、糖尿などであり、より深刻になればガン、脳梗塞、脳卒中などです。したがって、そこからはあまり無理せず家にいて、食事も健康に気を付けながら小食になって行く、という一般的なイメージがあります。たしかに、現在75歳以上の団塊世代以前の高齢者ではそうだったということもいえます。

しかしながら、いま大きくそれが変わろうとしています。最も大きな変化は、さきに挙げた病気や症状が治るようになったということです。実は、筆者も悪性のガンで入院し、手術から抗ガン剤治療を受けました。また、60代前半そして後半のつい最近も激しい腰痛に襲われ、仕事も断念かというところに追い込まれました。それにもかかわらず、ガンは完治し、腰痛も整体院を巡ってほぼ完治したといってもいい状態になっています。要するに風邪やケガと同じように治るようになったということです。
ガン友というガンを患って復帰した者同士は妙に親近感を覚えるというようになっています。

したがって、腰痛や関節痛の場合にはサプリメントや整体院またジムなどであり、ガンは病院ですが、治る方法や治してもらえるところを探します。万一、それでもうまくいかなかったときに、以前であれば仕方がないとして家で寝ていようかとなったわけですが、いまは「ヤブ医者め」とばかりに、治してくれるところを探すことになります。そこがまず、消費となるわけです。

サプリ、整体、ジム、病院、医薬品におカネを使って消費し、積極的に治して行きます。「生涯現役生活者」志向が高まれば高まるほど、それは今後ますます増大するといえるでしょう。

健康は目的でなく手段

ガンも腰痛も治して健康に。そしてより健康であり続けるために積極的に「予防」もするし、そのためのおカネは惜しまないとなります。
調査をすればもちろん「いまの健康を維持したい」というのは大部分の人がそう答えるわけですが、「いまの健康を維持して、さらに充実した生活をおくりたい」というのもきわめて多くの人がそうしたいと答えます。

つまり「健康」は目的ではなく「手段」だということです。シニアはややもすると24時間健康のことばかり気にしているように錯覚しがちですが、そんな人は誰もいないわけです。健康および加齢には相当気を使うので、そこにはおカネも惜しまないといえます。しかし、ゴールはあくまで「生活をより充実させたり楽しむため」であり、その手段としての健康なのです。

言い換えれば、「健康」のために消費し、健康であれば 「生活をより充実させたり楽しむため」にさらに消費をするという好循環が生まれることになります。

図表:健康不安・生活習慣病→予防・治療→生活をより充実・楽しむ→健康不安・生活習慣病

子育てを卒業して余裕のできた「小金持ち」の選択消費

現在わが国の個人資産は1903兆円(2019年12月末時点:日銀2020年3月18日発表)とされています。これが日本経済の強味ともいえますが、では誰がその1900兆円を持っているのかということです。その52.9%を占める預金でみてみると、圧倒的に50代以上がもっているということがわかります。

図表:世帯主の年齢階級別貯蓄の1世帯当たり現在高

50代というのはライフステージでみると、子供が独立する子育て卒業世代となります。大学に子供を行かせた場合にはそこが最大の教育費の支出になりますが、それが終わると、わが家もそうでしたが、グッと楽になります。ローンもそろそろ終わりに近づくし、60代になれば退職金も入って来ます。基本的には、家計のなかで絶対に削れないのは子供のための食費・教育費などであり、それがなくなると、大きく家計は変わります。極論をいえば、手元にあるのは全て可処分所得となります。とくにこの年代は奥さんが家計を握っていることが多く、したがって冒頭にもご紹介したように、お友達に誘われて京都へ金沢へソウルへとなるわけです。夫は出発の前日に言われてギョッとするばかりとなります。

ただし何にでもおカネを使うかといえばそうではなく、スーパーで一円のたたかいをしてきたので、自分でコレはと思えばおカネを出しますが、そうでないものには一円も出したくないというところです。したがって激安である必要はありませんが、男女問わず「割安」は大好きです。

老後2000万問題は消費にショック

老後2000万問題が2019年に政府筋から発表され大きな話題となりました。これは人生100年時代に老後は2000万必要だということです。主には若年層に積み立てNISAをすすめるところに狙いがあったと推察され、実際若年層の積み立てNISAは増大したので、その効果はあったといえます。しかしながら、一方では、社会的に大きな話題となり、当然、50代以上も自分ごととしてとらえました。どうとらえたかといえば、やはり人生100年時代への不安を感じた、というところです。そして、何をすべきかと思ったかといえば、むやみに消費をしてはいけない、というところです。

そもそも、内閣府のデータ(令和元年)をみても、二人以上世帯の貯蓄額の全世帯平均が1765万円に対して、60代以上世帯平均はやはり2285万円と平均を上回っています。とはいえ、これは富裕層が上に引き上げている面もあるため、中央値でみると、 60代以上世帯平均で1506万円です(以下図)。 つまり、2000万円には500万ほど届きませんが、ある程度近いところまでカバーしているといえます。つまり、給料が入って来なくなることは最初からわかっているので人から言われるまでもなく、自分たちで貯金しているのです。まさに貯蓄性向が高いと言われる日本の国民性のあらわれともいえます。

令和元年貯蓄現在高階級別世帯分布

少数派の富裕層ではなく「多数派の小金持ち」

この年代をみるときに、ビジネスサイドで混同されているのが、小金持ちを富裕層としてしまっていることです。小金持ちと富裕層では持っている資産額も大きく違い、お金の使い方や意識も大きく異なります。端的にいえば「富裕層は少数派」であり、「小金持ちは多数派」です。

さきほど京都に50代以上の女性だけでインバウンドの2.6倍行っていると書きましたが、これは小金持ちの女性たちです。富裕層がこんなに京都に行ったら京都は高級旅館で埋め尽くされるということにもなります。もちろん一部重なるところもありますが、基本的に、富裕層は人の行かないリゾートに行きます。これに対し、多数派の小金持ちは人の行くところ、人気のあるところにこそ喜んでいきます。志向性が全く異なります

多数派の小金持ちを富裕層として見てしまうと、「少数の富裕層とその他の要介護で辛い高齢者」という一般的に持ちがちなイメージにとらわれてしまい、機会を失ってしまいます。逆に本当の富裕層から得られる利益率の高い超高額消費も逃してしまうということになりかねません。実は、富裕層ビジネスが全体をリードする面もあることはあるのですが、とはいえ、富裕層ビジネスはあくまで、30・40代のIT系成功企業経営者も含むもので、多数派の50代以上の小金持ちとは基本的に異なる人たちだといえます。

「新しい大人のライフスタイル」を創りたい

従来の高齢者といえば、「余生を静かに過ごす」ということが当然の常識でした。食も細くなり、外出も控えめになって在宅が多くなり、しばらくして要介護になって行くというイメージです。しかしながら、さきほど健康のところで「これからは健康を維持し、生活をより充実させたい楽しみたい」と思っている、と書いたように、現在の50代以上は「生活をより充実させたい楽しみたい」と思っています。

実際「これから自分なりのライフスタイルを創っていきたい」という割合は8割を超えています。(「シニアマーケティングはなぜうまくいかないのか~新しい大人消費が日本を動かす」拙著日経新聞社P.316)余生を過ごすというのとは180度異なる考え方です。ヨーロッパでは「大人のライフスタイル」が基盤としてあり、それが「ヨーロッパの大人文化」をつくってきました

わが国の場合は、ファミリーが人生においても社会においてもゴールでしたが、人生100年時代によって、その先のステージが新たに出て来たといえます。主に「大人の二人(夫婦)」と「大人の仲間」を基本とする大人の生活です。ヨーロッパが伝統的な大人文化のエリアであり、すでに市場が確立されているのと同時に閉塞感もあるとされています。これに対して、日本はさら地であり、まさにいま「新しい大人のライフスタイル」による「新しい大人文化」が生まれようとしているのです。

「世界をリードする新しい大人文化」参照

成熟から「若々しい・自然体・センスがいい」へ

これまで中高年といえば「成熟した人」ということが誉め言葉でした。しかしながら、現在の40-70代では、言われてうれしい言葉として「成熟」はかなり低いといえます。反対にトップ3は「若々しい」・「自然体」・「センスがいい」です。 (「シニアマーケティングはなぜうまくいかないのか~新しい大人消費が日本を動かす」拙著日経新聞社P.100-105)

ここ20年程アンチエイジングということがよく言われてきました。サプリメントや化粧品なども多くの製品が出されてきました。しかしながら、ここ数年の特徴としては「自然体」がクローズアップされて来ました。アンチ・アンチエイジングということも言われますが、そこまで強くアンチエイジングを否定するというよりも、アンチエイジングが次に進化しようとしている、といえます。すなわち、いままでは、老化することが常識だったのに対してアンチエイジングが言われましたが、同時に「若づくり」に対する批判もネットを中心にかなりなされてきました。それに対して、とくに女性を中心に、「若づくりをしようと思っているわけではなく、より自然体であろうとしているだけだ」ということです。

ある50代女性にインタビューしたときのことです。「やはり若々しくありたいと思っているのですか」と質問しました。その答えは「そんなことは思っていません」と強く否定されました。では「どう思っているのですか」と聞いてみると「私、若いですから」という驚くべき答えが返って来ました。どうやら歳をとったという感覚すらあまりないということです。「自然体」というのはこういうことも含めたことだといえるのです。

そして、その感覚がグレーヘアは素敵だ、というように白髪を否定的にとらえるのでなく、それも魅力としてとらえる、というところにつながっている、といえます。

50代以上は大きく変わろうとしている、新しい大人のライフスタイルが生まれようとしている、そこに大きなビジネスの機会も広がろうとしている、といえます。