礼の国 日本
「日本人の精神」としての「礼の精神」の現在と歴史的経緯をデータ分析をまじえて明らかにし、次の時代の新しい扉となる社会課題への活用と世界へのインパクトを提起します。
ワールドカップでゴミ拾いをする日本の若者
サッカーのワールドカップで、試合後に日本人サポーターがゴミ拾いをすることが恒例となっています。2026年の北中米大会でも、FIFAが公式Xで「日本ファンが毎試合後にスタジアムを掃除する。リスペクトだ。」と記し、実際にサポーターがゴミ拾いする様子を紹介しました。青いゴミ袋いっぱいにスタンドに放置されたドリンクカップやペットボトルを集める姿が紹介された、とされています。(Y!ニュースTHE ANSWER6/15より)
また、この模様は海外メディアでも紹介され、米FOXスポーツの中継では「日本代表ファンの素晴らしい伝統の1つです。」と賞賛されました。 (Y!ニュースTHE ANSWER6/15より)
日本-チュニジア戦の後には、FIFA公式Xのスタッフも参加して公式Xに「究極の敬意を示す」と紹介されました。(Y!ニュースTHE ANSWER6/22より)
また、森保監督も、引き分けたオランダ戦の後、対戦相手を称えるだけでなく、「私自身が日本代表になったときにハンス・オフトさんというオランダ人のコーチに育てて頂きました。」「ビム・ヤンセン監督というオランダのレジェンドにJリーグ広島の監督、浦和のコーチをやっていただき、日本のサッカーに大きく貢献してくださった。」と感謝を伝えました。これに対して、日本のファンから「森保さんって日本人らしい礼儀を持ち合わせている」「礼儀・配慮は世界一の監督だと思う」と賛辞が集まった、とされます。(Y!ニュースTHE ANSWER6/19より)
外国人が日本にきて驚くのは、「地下鉄で足を投げ出して座る若者がいない」ことだと言われます。ワールドカップという世界中の国々が集まるなかで、唯一日本人サポーターや日本人監督だけがゴミ拾いをしたり、対戦相手の国に過去にさかのぼって感謝をしています。
これが、まさに、『日本人の精神』だといえるでしょう。すなわち、『日本人の礼の精神』であり、『日本は礼の国』だということです。それは若者だけなのでしょうか。
当研究所の調査では30-70代の広義の新しい大人世代(*)がそのベースとなる感覚を共通に持つことがわかりました。
新しい大人世代の「理想の大人」と「日本人の精神」
理想の大人像(30-70代)-年代別-

理想の大人像(30-70代)-男女別-

当研究所では30-70代を対象に全国の男女に「理想の大人像」の調査をしました。その結果、意外にも30-70代まで、あまり差がなく、ほぼ同レベルで、同様の項目が同様の順位となっていることがわかりました。そのことは、 30-70代まで、あまり年代差なく、「理想の大人」について、ほぼ同じような意識を持っているということを意味しているといえます。
そのなかで、60%以上すなわち、30-70代がある程度共通意識として、持っている項目をみてみたいと思います。
まずは、1位「今の自分を幸せに感じられる大人でいたい」87.3%、2位「あるがままの自分・自然体の大人でありたい」86.4%、からは、
<自然体な大人>
が理想だ、といえます。さらに、「既成概念に捉われない柔軟な考えを持った大人でありたい」82.9%ということから、
<既成概念にとらわれない柔軟な大人>
でありたいといえるでしょう。また、「人間関係や仕事など周囲の環境変化に臨機応変に対応できる大人でありたい」80.0%、「人間関係や仕事など周囲の環境変化に動じない泰然自若とした大人でありたい」78.7%、ということから、
<人間関係に臨機応変に対応し、あまり動じない大人>
でありたい。そして、「常に向上心を持った大人でありたい」72.3%、から
<つねに向上心を持った大人>
また、「日本人本来の美意識や生活習慣を尊ぶ大人でありたい」70.7%、から
<日本人としての美意識や生活習慣を大切にする大人>
が理想的な大人だと思っているようです。
さらに、「人生で学んだ教養や経験を周囲と交換・共有できる大人でありたい」69.5%、「みんなのために生きることを喜びとする大人でありたい」63.7%、「周囲から尊敬(リスペクト)される大人でありたい」60.9%、から
<周囲と良好な関係を持ちつつ、みんなのために生きる喜びを持つ大人>
であることが「理想的な大人」だ、と思っているといえます。
これは30-70代がある程度共通に、大人として「なりたい」「こうありたい」と思っていることです。日本人として普遍的に持ちたい意識、言い換えれば、現在の日本人のベースとなる精神ということもいえるのではないでしょうか。
ワールドカップで発揮された精神は、若者のみならず、30-70代の新しい大人世代(*)共通の意識をベースとするからこそ、といえそうです。
ここには「いまの時代」の感覚、という項目もありますが、一方では、歴史的に日本人が培ってきた精神ということもいえそうです。
戦国時代から続く日本人の精神
実は、日本人の「礼の精神」は、はじめて西洋人が日本に来た戦国時代から見られるのです。
1585年の天正遣欧使節の日本人少年たちは、「生意気で慎みのない他の少年たち とはまったく異なっている」と記されているそうです。「一般の人びとや労働者、職人」さえも「出しゃばらず正直で」あり、「その作法はとても礼儀正しいものであったので、人はかれらが長い間宮廷に出仕していたと想像するだろう」とも記録されています。(大阪大学ナレッジアーカイブ「近世ヨーロッパにおける日本人と中国人のイメージ: 身体的特徴・習俗・技術 ─極東の文化へのさまざまなアプローチの比較─ 」ヴァルター・デーメル 中村武司訳より)
まるで、今日の訪日外国人が日本の若者を地下鉄で見かけて、席に座って足を投げ出さないことに驚くことと、ほぼ同様の驚きを戦国時代の西洋人がしていたことに、こちらの方が驚かされます。これらのことは、多くの当時の宣教師などによっても指摘されているところです。もちろん、日本人については、面白おかしく紹介されていることもかなりありますが、その「礼儀正しさ」については、共通しているようです。
また、幕末から明治にかけて来日した外国人も同様の驚きを示しています。「世界中のいかなる国民でも、礼儀という点で日本人にまさるものはない。身分の低い百姓から最も身分の高い大名に至るまで大変礼儀正しい。われわれは日本国全体を礼儀作法を教える高等学校と呼んでもいいであろう」(エンゲツト・ケンペル:ドイツ/医師)(http://www.learning.co.jp/perspective/7455「日本人の礼儀(幕末明治の外国人が見た日本)」ラーニング・システムズ高原コンサルティングオフィスより)
さらに、日本には「小笠原流」という礼儀作法についての流派まで存在します。
「日本人の礼の精神」は昨日今日取って付けたようにあられたものではなく、また、親や先生や組織から言われて表面的に無理にやっていることでもなく、歴史的に「日本人の精神」として培われたものといえます。
「礼の国」日本が次の時代の扉を開く
「礼の精神」は日本人の特性であって、身についたものといえそうです。ここで言う 「礼の精神」は固くるしく、無理にそうしようというものではなく、日本人であれば、普通に暮らしていても自然にあらわれるものといえます。
オーバーツーリズムは、どの国でも悩まされていて、わが国も例外ではありません。全国各地の観光地でも対策に追われていますが、なかなか決め手となる解決策は難しいのが現状といえます。
一方で、「2025/26年人口構造激変」(当サイト)にあるように、わが国の50+(新しい大人世代*)の国内観光客消費額(12.9兆円:2025年推計)はインバウンド消費(9.5兆円:2025年)を凌駕しています。観光客数としても同様といえます。そのパワーが現地の若者や女性を助けながら、「日本人の礼の精神」を発揮して頂くということは大いにあるのではないか、と思われるわけです。この世代が若い頃は多少、無軌道・やんちゃと言われたこともあったかもしれませんが、さきほどの調査にもあったように、この年齢になれば、まさに「大人」になって、多くの人たちが身についた自然体としての礼儀をする、そうしたいと思うことが当たり前になっているのではないでしょうか。レストランでも宿泊先でも身についた礼儀での行動はむしろ当たり前といえるでしょう。
その意味では、「旅先で“礼の精神”の発揮」を大いにして頂くことが可能ではないかと思うわけです。この日本人50+(新しい大人世代*)の国内観光客をリード役として、オーバーツーリズムに良い影響を与えることもできるのではないかと思います。
日本人50+(新しい大人世代*)に旅先でのモデルになって頂く。例えば、挨拶・清潔・汚れは自分で拭く・後片付けをする・ゴミは持ち帰るetc. です。訪日外国人には、旅先でそのようにすることが、日本の文化をマネすることとして面白いと思って頂けたら、と思うわけです。
そのためには、訪日外国人に「日本の礼の精神」を文化として楽しんで頂くことが良いのではないかと思うわけです。
つまり、忍者や茶道と同じように、日本の文化のひとつとして訪日外国人に紹介する。「小笠原流」という流派まであり、各地方に伝わる作法・所作もあります。いわゆるマナー教室ではなく、忍者や茶道と同じように日本の文化として面白がって頂くための訪日外国人向け「日本の礼の文化教室」があってもいいのではないでしょうか。
まさに、「郷に入れば郷に従う」、その楽しさを体験して頂くということです。マナーとしてそうしてくれ、と言っても残念ながらお題目になってスル―してしまいがちです。そうではなくて、ほかの国にはない日本独自の文化に実際に触れて実体験して頂く機会にするということです。実際、お茶も武道も公家文化も「礼の精神」の上に成り立っていると言っても過言ではなく、まさに、「日本の文化」「日本人の精神」の深いところを体験して頂くということです。
サッカーのワールドカップでは、FIFAも海外メディアも驚いています。新しい大人世代(*)が大いに「礼の精神」を旅先で発揮すれば、訪日外国人のリード役になるでしょう。
ジャパン・アズ・ナンバーワンから遠ざかって久しいといえますが、当時はそれがおカネであったために、賞賛の一方で世界から非難された面もあったのではと思います。すぐにできることとして、また、「精神」として、「礼の国日本」「日本人の礼の精神」を世界に大いにアピールしても良いのではないかと思います。そのことは、日本にとって大いに世界に誇れることであり、かつ、日本人にとっても、世界中の誰にとっても良いことになると思うのです。
(*)「新しい大人世代」は当サイトでよく使われるワードですが、
「狭義の新しい大人世代」 50+と記している50代以上を指します。50代以上が従来のシニア・高齢者と異なっているからです。
「広義の新しい大人世代」 30代以上を指します。20代までが若者で、30代から一般には大人と言われることも多いといえます。この現在の30代も、そこから中年になるという従来の感覚とは異なるとみられることからです。