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WHAT IS A NEW ADULT?

01 50代以上が大きく変わってしまった。
「シニア」という捉え方にズレが生じている

日本を代表する国民的テレビアニメ『サザエさん』。主人公であるサザエさんの両親にあたる、磯野フネさん、波平さんは一般的なお年寄りのイメージで描かれますが、何歳だと思いますか?正解はフネさんが52歳、波平さんが54歳。
それを前提に、今の時代の50代以上の著名人を挙げてみましょう。
50代で言えば、女優の薬師丸ひろ子さんが60歳、小泉今日子さんが58歳。60代以上を挙げても、女優の黒木瞳さんが63歳、明石家さんまさんが69歳、タモリさんに至っては78歳と、どの方もまだまだ現役で活躍されている方ばかり。
みなさんフネさん、波平さんよりも年上なだけでなく「シニア」という言葉のイメージからもかけ離れています。
少し前まで日本の50代以上と言えば、フネさんや波平さんのような、「初老」というイメージでした。もちろん60代や70代も同様に「老人」扱いだったわけなのですが、現実はそうではなくなってきているのです

50代以上が大きく変わってしまった。「シニア」という捉え方にズレが生じているのイメージイラスト1 50代以上が大きく変わってしまった。「シニア」という捉え方にズレが生じているのイメージイラスト2

02 「シニア」という言葉は
プラスにとらえられていない

そもそも「シニア」という言葉が何歳のことを指すのか知らない人は多いのではないでしょうか?「シニア」が厄介なのは、この「シニア」という言葉そのもののイメージが漠然としているところ。さらに問題なのは、若者にとって「シニア」という言葉にあまりいいイメージがないところにあります。
「シニア」が何歳を指すのかはわからないにしろ、イメージとしては「人生下り坂、お年寄り、高齢者」といったところでしょう。最近よく耳にする「老後2000万問題」という言葉からしても、自分が将来「シニア」になるということでワクワクする若者はまずいないと言えます。
そんなマイナスのイメージがつきまとう「シニア」という属性に、該当する世代も呼ばれたいはずがありません。これは長年高齢社会の研究をしていてもわかったことですが、人間誰しも「高齢」を意味する言葉では呼ばれたくないということです。
ですから、以前は高齢者を指して「お年寄り」という言葉が使われていましたが、「シルバー」という少しオブラートに包んだ言葉に成り代わりました。それでも徐々に「シルバー」という呼び方が定着してくると、「お年寄りの言い換え」に過ぎないとみなされ、若者や大人というカテゴリーとは別もの扱いされるようになりました。
本来なら「シニア」にしろ「シルバー」にしろ、単なる属性を表す記号に過ぎずないはずなのに、そのマイナスイメージばかりが一人歩きをし、ひいては若者や大人とは別物だという隔たりを作ってしまったのです。

「シニア」という言葉はプラスにとらえられていないのイメージイラスト1 「シニア」という言葉はプラスにとらえられていないのイメージイラスト2 「シニア」という言葉はプラスにとらえられていないのイメージイラスト3

03 「シニア」に代わる呼び方には
「新しい大人」が相応しい

そこで、「シニア」に代わる言葉はないかと考えてみました。まず実際に「シニア」に該当する世代(40代〜70代)に「言われて嬉しい言葉」をリサーチしてみたところ、トップ3は「若々しい」「自然体」「センスがいい」という結果になりました。そこにあるのは、決して「老いに抗いたい」という気持ちではなく、「今のまま、自然体の若々しさを維持したい」というものだとわかります。
実際に、以前は化粧品業界でも「アンチエイジング(老いに抗う)」という単語がもてはやされていましたが、ここ数年は「自然体」とも通じる「アンチ・アンチエイジング」がクローズアップされてきています。
「若づくり」という考え方ではなく、「自然体のまま若々しくあろうとする」生き方に進化したということです。
さらに、フネさんや波平さんをロールモデルとしていた時代は、「余生を静かに過ごす」ということが当然のように浸透していました。ですが、今の50代以降の世代は「人生これから感」を持ち健康を維持して生活をより充実させて楽しみたいと思っています。実際「これから自分なりのライフスタイルを創っていきたい」という人の割合は、50代以上の人口の8割を超えています。
このような結果からしてみても、ひと昔前までは全ての人が一律に「無個性な老人」になって行くことが常識でしたが、今は違います。50代までの「会社のため」「仕事のため」「家族のため」「子供のため」だった「従来の大人」を卒業して、「自分らしくある」ことに価値を置く、「新しい大人」としてのステージを歩み出したと考えるのが自然なのではないでしょうか。また40代も、その「新しい大人」のステージに向けて準備をしている世代と言えます。

「シニア」に代わる呼び方には「新しい大人」が相応しいのイメージイラスト1 「シニア」に代わる呼び方には「新しい大人」が相応しいのイメージイラスト2 「シニア」に代わる呼び方には「新しい大人」が相応しいのイメージイラスト3

04 「人生下り坂」から「人生これから」へ
「新しい大人社会」にある意識の変化が鍵

今、日本は成人人口(20歳以上の人口)1億人に対し、50代以上の人口が6000万人で、「大人の10人に6人は50代以上」となっています。40代以上になると7800万人。すでに「大人の10人に8人」は40代以上という値。「大人といえば40代以上」という、想定外の世の中となっています。

  • 50代以上 60,900,000 50代以上 60,900,000
  • 40代以上 78,500,000 40代以上 78,500,000
  • 成人人口 100,000,000 成人人口 100,000,000
  • 総人口 125,900,000 総人口 125,900,000
人口推計2020年5月1日(総務省統計局)より 人口推計2020年5月1日(総務省統計局)より

4年後の2025年にどうなるかといえば、「団塊の世代」と「団塊ジュニア世代」という2大人口ボリュームゾーンが、いずれも50代以上となります。そして残念ながら、日本は人口構造の上からは再び若者社会に戻ることはありせん。
その基本的な要因は「団塊ジュニアジュニア世代」が「団塊ジュニア世代」ほどの人口ボリュームにならなかったことにあります。そしてそれは、「団塊ジュニア世代」がすでに出産期を過ぎてしまっているため、今後も変わることはありません。
これを若い世代の人たちに伝えると、「日本は終わった…」と言われることも多く、実際そうなのかもしれません。まさにこれが超高齢社会であり少子高齢社会です。どちらにしてもこのままではぶ厚い高齢者のいる重い社会になりかねません。
では、どうすればいいのでしょうか。
社会の人口構造の変化を悲観的にとらえ、「元気な若者社会」から「重苦しい超高齢社会」へとマイナスに変化する、と考えるのではなく、「若者社会」から「新しい大人社会」へとプラスに転換していくととらえてください。すなわち、「若者中心の文化」ではなく「若者とともにある新しい大人文化」が根づく社会にしていくこということです。
そんなことがあり得るのか。実は今、40代以上のライフスタイルは実際に大きく変わろうとしています。
その意識と行動によって「新しい大人文化」が確立する可能性が大きく広がろうとしているのです。消費者という意味では特に、今までは60代を過ぎれば仕事とともに消費市場からは退場というのが通例であったのが、そうではなくなったとが大きな要因でもあります。
この「新しい大人消費」は「若者の雇用」も生み出します。自分の人生を楽しみたい―。この「新しい大人」へのステージ替えこそが、「人生下り坂」感から「人生これから」感への大きな転換となっています。

05 「新しい大人」という巨大市場を見逃すな!

一般に「シニアマーケティングがうまくいかない」「人も市場も動きにくい」という話をよく耳にします。実はその「シニアマーケティング」という考え方そのものに意外な落とし穴があります。
テーマ02や03でも触れましたが、下のグラフが示すように、実はここ10年くらい、「シニア」と呼ばれて自分のことだと感じるというのは、50代で10.7%に過ぎません。実に89.3%の人が自分を「シニア」だとは思っていないという結果が出ているのです。また60代では、40.0%と上がりますが、その60代も「シニア」と呼ばれたいかというと15.6%と低い数値。84.4%の人は「シニア」と呼ばれたいとは思っていないのです。要するに日本の50・60代は「シニア」と呼ばれても自分のことだとは思わないし、「シニア」と呼ばれたいとも思っていないということです。これはアメリカでも同じような傾向なので、世界的に同じ傾向にあるといえるでしょう。これを私たち研究所では「シニアの壁」と呼んでいます。
簡単に言うと、「シニア」という言葉を使っている限りは、消費は伸びないということです。普段使いの言葉としては「シニア」より「中高年」のほうがベターだといえます。また根本的な部分になりますが、「シニア」とは終わりかけの人だから、この人たちにアプローチしても仕方がないという話もよく聞かれます。ですが、本当にそうでしょうか。

シニアと呼ばれて自分の事だと感じる シニアと呼ばれて自分の事だと感じる
  • 50代の結果 50代の結果
  • 60代の結果 60代の結果
シニアと呼ばれたい シニアと呼ばれたい
  • 50代の結果 50代の結果
  • 60代の結果 60代の結果
人生100年時代  未来ビジョン研究所調査 全国男女40-70代 1864s 2020年6月 人生100年時代  未来ビジョン研究所調査 全国男女40-70代 1864s 2020年6月

「新しい大人」へと意識を変えて進化する中、実際にどういう現象が起きているかといえば、若い世代との価値観の共有です。さらに、若い世代と張り合うというよりは、より深いところで「新しい大人」の人生を楽しみたいと、「自分を満足させるための消費行動」が顕著になってきています。
2020年に上映された映画『鬼滅の刃』を例に挙げてみましょう。20代、30代の若い世代が主要層ではありますが、その興行収入を底上げしたのは、幼い子どもたちのその親、さらには祖父母までもが観に来たことが大きな要因でもあります。映画だけではありません。ほかにも、バイク業界では「リターンライダー」と呼ばれる中高年がユーザーになり、若者のときには欲しくても買えなかったハーレーなどの高額バイクを購入したり、最近まで子どものお菓子というイメージだったチョコレートなども、バレンタインデーの義理チョコ文化から始まり、今では高級パティシエが手がける商品など、本格的なものが誕生し、大人が自分のご褒美として買うまでになっています。
そしてこの今の「新しい大人」が望むライフスタイルに近いのが、ヨーロッパの「大人文化」と言えるでしょう。ヨーロッパでは古くから、若者が踏み入れることのできない上質かつ気品溢れる「大人の社交場」のような劇場やレストラン存在し、それは「ヨーロッパの大人文化」として経済の基盤にもなってきました。
日本の場合は、ファミリーが社会においても人生においてもゴールとされていたため、このような文化は存在しませんでした。ですが人生100年時代と言われる現代において、やっとその先のステージが新たに出てきたといえます。
おもに「大人の二人(夫婦)」と「大人の仲間」を基本とする生活です。それは、すでに確立されたヨーロッパの大人文化の要素もありながら、「新しい大人」が生み出す日本独自の「新しい大人文化」として発展しようとしているのです。
つまり、このヨーロッパのような「新しい大人文化」が日本に根づけば、若者はそれに憧れるようになり、一定の年齢に達したらこの「新しい大人」になりたいと思い、消費も積極的にするでしょう。これが半永久的に繰り返されることで、社会全体が急成長はせずとも、持続的な成長はしていくということです。また、しかもヨーロッパは連綿とした大人社会のために、すでにやや閉塞感もあるとされますが、日本の場合、大人文化の基盤はまだ更地であり、新しさを生み続ける文化になる可能性があります。
そのため、若者とともにある「新しい大人文化」や「若者文化と連携する新しい大人文化」の発展が可能になり、それによって「新しい大人市場」が生み出されるでしょう。ひいては「新しい大人市場」は次々に若い人が成長して入って来る恒常的なボリューム市場となることができます。

新しい大人市場/新しい大人文化 大人のロック 大人のバイク 大人のチョコ 大人のクルマ etc... 新しい大人市場/新しい大人文化 大人のロック 大人のバイク 大人のチョコ 大人のクルマ etc...
新しさを生み続ける文化 新しさを生み続ける文化
持続的な市場 持続的な市場
若者があこがれて一定の年齢に達したら消費 若者があこがれて一定の年齢に達したら消費

06 世界をリードする日本の「新しい大人文化」

実は高齢化というのはグローバルに進行する大きな社会変化です。これは日本・アメリカ・フランス・ドイツ・イタリア・スウェーデン・イギリスなど先進主要諸国の65歳以上人口の割合です。1950年~2050年までの100年間の変化で、とにかく世界中が高齢化をしていきます。
日本の高齢化を示すグラフは、下のグラフ(黒い線)をご覧いただければわかるように、ターニングポイントは2000年です。2000年以前は日本は他の国より高齢化率が低く、言い換えれば、日本は2000年以前は若者の国でした。ところが、2000年以降どんどん他国を抜いて、日本は高齢化が進んでいます。そして世界中が日本のこの先に注目しています。よくも悪くも高齢社会の先行指標になるということです。
これについては、かつてP.F.ドラッカー教授も、「(高齢社会の新しいモデルを提示することで)世界をもう一度リードする日本になる」と提言されていました。

日本の65歳以上人工割合 主要先進国の65歳以上人工割合 日本の65歳以上人工割合 主要先進国の65歳以上人工割合
資料: NM, Word Population Prospects: The 2004 Revisionによる 資料: NM, Word Population Prospects: The 2004 Revisionによる

以前グローバルな調査を実施した際、アジア・ヨーロッパ・アメリカでエルダー雑誌を収集して、そのなかから共通項を導き出しました。その結果、2つのワードが浮かび上がりました。それが、

  • Stay Young
  • Young at heart

という言葉です。
この2つは世界共通に目標とされているといえます。その意味では、日本の「新しい大人」が生涯現役の生活者として、見た目だけでなく精神的にも「自然体のまま若々しく」あろうとする姿は、世界をリードする可能性を十分に持つといえます。
さらにそこに「若者とともにある“新しい大人文化”」が花開けば、まさに世界をリードする日本になるといえるでしょう。